慢性疼痛

慢性疼痛

慢性疼痛について

慢性疼痛は、国際疼痛学会では、「治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」と定義され、一般に発症から3か月または6か月以上継続する痛みとされます。慢性疼痛には、侵害受容性疼痛や神経障害性疼痛、心理社会的疼痛などの様々な痛みの要因が関わりますが、心理社会的要因が強くなるほど痛みは長引く傾向にあります。慢性疼痛患者さんの心理的側面としては、恐怖-回避モデル(fear-avoidance model)が提唱されています。恐怖-回避モデルは、痛みに対する恐れからそれまで出来ていた活動を避けがちになり、それが長期化することで身体的な機能の低下や気分の落ち込みなどが生じ、さらに痛みを生じやすくなるという悪循環を形成することを指します。このように、慢性疼痛には心理や行動面などが強く影響するため、治療は薬物治療やブロック治療などの他にも、心理療法やリハビリテーションなども行われます。さらに、これらの治療を多職種の専門家が協同して行う集学的治療が開発され、多くの痛みセンターで実施されています。また、一般に慢性疼痛の治療目標は、疼痛が全くない状態を目指すよりも、身体的・精神的な健康の向上、生活の質(Quality of Life)の向上、薬物治療の副作用を最小限にすること、疼痛の無い状態にするのは困難であるという認識を持って疼痛管理を行うこと、などが挙げられます。

慢性疼痛に対する森田的アプローチ

一方、森田理論では、慢性疼痛患者さんを以下のように捉えます。
患者さんは、疼痛を有している状態は本来の自分ではなく、痛みが無くなれば問題は解決すると考え、痛みの消失を期待して治療を行います。しかし、治療をした後も継続する痛みによって強い期待は裏切られ、痛みへの注意は更に強まり、痛みを避けるための生活が成り立ってしまう。それによって本来の人生目標を見失っている状態にある。

そのため森田療法では、疼痛の原因を求め、疼痛の原因を取り除くといった努力を行うのではなく、疼痛を抱えつつも、本来の目的である日々の生活を楽しめるような生活習慣を確立していきます。実際の診察場面では、痛みの訴えを尊重した上で、痛みへの“とらわれ”を明確化するようにします。面接では、「痛みを恐れると痛みに注意が向きやすくなり、感覚が研ぎ澄まされます。この状態は筋肉の緊張をもたらし、さらに痛みが強まります。痛みが強まるのでますます痛みに注意が向き、心と身体の悪循環につながります」との説明や、「痛みを無くそうとしても思い通りにならないため、かえって苦しくなるのではないですか?」などと問いかけます。こうして患者さんのとらわれを明確にしつつ、建設的な行動を促すために、不安や痛みを抱えながらも、今できる事から実行していくようアドバイスを行います。また、森田療法は医師のみならず、看護師、心理士、作業療法士などが加わる集学的治療であるため、これらの職種によるアプローチも同時に行われます。一連の経過の中で、治療の焦点を痛みから患者さんの生活へと広げていき、「痛みを良くしたい」という気持ちを、患者さんが本来有している建設的な方向へ“生かす”ようにしていきます。