長引くうつ状態

長引くうつ状態

うつ病とは

うつ病では、憂うつな気分が続く(抑うつ気分)、気力がでない、興味や関心がわかない、何をしても楽しくない、物事を悲観的にばかりとらえる、死にたくなる、といった精神症状や、眠れない、食欲がない、体重が減る、疲れやすい、だるい、といった身体症状が出現します。

うつ病の治療

うつ病に対する治療としては、抗うつ薬を中心とした薬物療法と十分な休息が最も大切と言われています。しかし、長引いてしまったうつ病や6割程度の回復で停滞してしまったようなうつ病の方には、抗うつ薬と薬物療法だけではうまくいかないことがあります。

近年、森田療法センターでは元来の対象である不安症(不安障害)の他にも、長引いてしまったうつ病(慢性化・遷延化したうつ病・うつ状態)にも入院森田療法の適応を拡大しています。

長引くうつ病のための入院森田療法

入院という治療環境で、日常生活の作業を軸にして、「うつ病・うつ状態」を引き起こす、もしくは長引かせている「性格傾向・生活スタイル」を見直し、生活を立て直すことが目的となります。つまり、「うつから抜け出すためには、どのような姿勢を身につけていけばよいか」ということを日常の生活の中で探っていくということになります。

入院森田療法に適しているうつ病・うつ状態の方というのは、強い抑うつ感や焦燥感(イライラ感)、希死念慮(死にたくなる)、不眠、食欲低下などはある程度回復しているものの、「今ひとつ気分が晴れない」「何をしても楽しくない」「生き生きとした興味や関心が取り戻せない」「復職したいけど、仕事に戻るのは不安」といったような病状が長引いて、寛解に達しないというような方です。

また、入院森田療法を行う際に、うつ病の方の場合は、薬物療法の併用が原則となります。残念ながら、自殺の危険があったり、意欲低下が著しく、身動きがとれなかったりするような重症のうつ病や躁病の方には森田療法の適用は困難です。

【患者さんの声】 Aさん 50代 女性

森田療法を受けて

私は今改めてこの年齢になって慈恵医大で森田療法を受けられたことを、とても幸運だったとしみじみ感じています。

ここでの入院生活を続ける中で、うまく言葉に出来ませんが、自分自身に息を吹き込み鮮やかな感覚を取り戻し、まるで蘇ったかのようにさえ思えます。

私のうつ病歴は27年にも及びました。結婚5年目でやっと恵まれた子どもの産褥期から始まりました。日常の生活が夢の中で見ているような現実感のないものに感じられ、頭がボンヤリとして考えがまとまらない、体に鉛が入ったように重くて動きが辛い、「頑張らないと!頑張らないと!!」と自らの気持ちを持ち上げ、家事と育児をやっとの思いでこなす日が続き、ある朝、突然起き上がれなくなりました。近くの大学病院でいくつかの科の診察を受けた後、精神科で「大うつ病」と診断を受けました。当時のうつ病の治療は①処方された薬をきちんと飲むこと、②体調が悪い時は十分に休養すること、③薬を長く飲み続けることで病相が抑えられる、ということで、私はよくなりたい一心で真面目に治療を受けてきましたが、それでも1年の1/4ほどうつ症状が出て、日常生活が困難になることに疲れ果て、医療が信じられなくなり、民間療法の数々を試し、2年前に断薬に辿り着いたものの、この間の体調の悪さが「もう一度きちんとした診断を受けて、薬物療法だけに頼らない治療を受けよう」という冷静な判断を導いてくれ、慈恵医大で森田療法を受けようと迷わず思いました。

臥褥に入り、周りのことを一切気にせず、横になって過ごせることに、まず安らぎを覚えました。初めて会った主治医から「反復性うつ病」の診断と「この病気は身体疾患により近い病態なので、薬は必要ですよ」と丁寧に説明を受け、まずは、この病気を受け入れようという決心がつきました。過去の治療の後悔ばかりが思われ、不安や焦りとザワザワした落ち着かない気持ちが続きましたが、4日目以降、自分の考えを変えていきたい!セカンドライフを豊かなものにする為に、うつ症状に左右されることのない生活を手に入れたい!という思いを新たにし、絶対できる!必ずできる!と強い意志を持って治療を受ける覚悟ができました。

ここでは色々な年代の患者さんたちと関りながら、今まで経験したことのない沢山の作業を経験しました。犬や鳩のお世話、沢山の植物の手入れ、食事のカート運び、作業の一つ一つが手順よく決められていて、はじめは緊張と驚きで集中できず、すぐに覚えられず、また慌ててしまってミスをして落ち込んだり、自信を失ったりする日々が続きました。そんな時はいつも先輩達が優しく対応してくれました。そんな自分をいつも責めている自分にも気が付きました。医師からは体で覚えていきましょう、とアドバイスをもらい、焦らず慌てず丁寧に作業に関わるようにしていきました。

作業にようやく慣れた頃から、自分のこだわりや、考え方の傾向、人との関わり方のクセに気が付くようになりました。不思議なことに、それらと同時に色々なことが問題となって私に降りかかってきました。今までだったらうまく逃げていたことに向き合わなければいけませんでした。その度に、人に自分の話をするのが苦手な私が医師にできるだけ伝える努力をしてアドバイスをもらい、実行するように頑張りました。

入院から3か月が過ぎた頃、私の中に仲間の姿から、その人なりの持ち味や魅力を感じられるようになり、ここでの生活で苦楽を共にした愛着が生まれていました。意見のすれ違いでギクシャクした以前とは違い、自分の思いを相手の考えを受け止めながら、ハッキリと伝えられるようになりました。

イラストその後、バラ栽培の専門家の先生の御来訪があり、園芸は神経質にならず、アバウトに取り組めばいいこと、バラの手入れは難しく考えることなく、花の生命力を感じて臆せずすること、剪定は全体像を見て、咲いた時のイメージをしてするように、とのメッセージが、森田療法を終える私へのタイムリーなプレゼントのように思え、植物係を経験できたことも全て貴重な体験となりました。

4か月近く外の情報から遮断された環境で、医師と看護師さんの支えを得て、自分自身にしっかりと向き合えた時間は、この年齢になった私に絶好のチャンスだったように思えます。うつ病を病み、思いがけない人生を生きていると辛かった時間が、私を強くし、そして優しく成長させてくれていたように感じます。これから、ここで経験したことを生かして、日常生活の再構築をしていきます。ここの治療で経験したことを全て自信に変えて、家庭も大切にし、穏やかに好きなことを楽しんでいきたいと思います。

 

 

 

【患者さんの声】 Bさん 40代男性 会社員

数年前、勤めていた会社で配置転換があり、業務内容が大きく変化しました。その負担からうつ状態になってしまい、会社を休むようになりました。

会社の近くの病院で受診し、薬物療法を行うことで、一時的に症状が改善し、復職を果たしましたが、心身の疲労から再び仕事を休むようになってしまいました。うつ状態から抜け出せず、症状が改善しないまま、このような生活が数年に渡って繰り返され、慢性的になってしまいました。

そんな折、森田療法センターを知り、受診し、自ら入院を希望しました。
入院してから、医師やスタッフと相談しながら、作業を行いました。作業を通して、医師から指摘されたのが、「一人ですべてをこなそうとする完全主義的なスタイル」でした。

自分自身では、気づいていなかった性質が明らかになることで、心身の疲労を大きくし、うつ状態を長引かせていた原因がはっきりしました。入院の後半では、医師と話し合い、色々な作業を通じて、疲労をため込まない作業・生活スタイルを意識しました。その結果、長いうつ状態から抜け出すことに成功でき、復職を果たしました。

原因が分からないと治療方法が見つかりません。入院をすることで、医師がしっかりと私を見つめ直してくれるので、長年続いたうつ状態が改善できたと思っています。