身体症状症(身体表現性障害)

身体症状症(身体表現性障害)

身体症状症(身体表現性障害)とは

消化器症状や痛み、しびれ、うずき・・などさまざまな身体症状に悩んだり、重篤な病気に罹っているのではないかと悩んだりして、生活が妨げられるものを言います。ICD10の分類(WHOのガイドライン)では

  • 身体化障害(症状が多発的で繰り返し起こり、しばしば変化するもの)
  • 心気障害(重篤で進行性の身体の病気にかかっているのではととらわれるもの)
  • 身体表現性自律神経機能不全(自律神経系の器官の症状)
  • 持続性身体表現性疼痛障害(頑固で苦しい痛み)
  • 他の身体症状症(身体表現性障害)

などが含まれます。最近のDSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)では、「身体症状症および関連症群」という名称に、心気障害は「病気不安症」という名称になっています。

例えば森田が「普通神経質」と呼んだ、頭痛、めまい、頭内のもうろう感、身体の倦怠感、耳鳴り、胃腸症状、不眠・・など、心身の異常感にとらわれるものなどもここに含まれます。
そうした中でも、「神経質性格」を持ち、注意と感覚の悪循環によって症状にとらわれている場合、森田療法の適応となります。身体の不調や違和感、不快な感覚に対して、「これは何だろう?」「大きな病気の兆候ではないか?」「こんな体調では今日の予定がこなせないのでは?」といった不安な注意を向けると、感覚はますます鋭敏になり悪循環によって身体の不調にとらわれていきます。さらにそうした不安の裏に「仕事や勉強をやるために体調を万全にしておきたい」「健康でありたい」という思い、すなわち「生の欲望」が読み取れる場合、森田療法を活かすことができるでしょう。

【患者さんの声】 Aさん 20代 女性

入院を振り返って

主治医の先生に最初に入院を勧められたのは大学に入学する前だった。それを断ってなんとか頑張ってきたつもりだが、体調を崩して自分の力で再び歩き出すのが難しくなった時、やっと入院を考えるようになった。何から手をつけていいか分からず、とりあえずやってみるか、という気持ちの一方、まだ入院を嫌がる自分がいたことも確かだが、なるべく嫌なことを避けてきた私が一種の荒療治として入院を決意できたのは、大きな一歩だったと思う。

まず、1か月お試しのつもりで、と言われ、自分でもあまり不安になりすぎないように心がけて入院前の1か月を過ごし、入院当日は実感が湧かないまま病院に来た。森田での治療の流れは本を読んだり、HPで見たりしていたが、実際に具体的な説明を受けると先が長く感じた。

イラスト 1週間の臥褥期は思い返すとほとんど寝ていたように思う。家ではほとんど昼夜逆転の生活であったため、夜寝られない心配もあったが、拍子抜けする程寝つきは良かった。3日目くらいから朝の検温の時間までに目が覚めるようになり、1日を長く感じた。何もしないでいると、大小様々な思い出や過去が思い浮かび、あの時はああしたけど、今の自分ならこうするのにな、とぼんやり振り返っていた。私にとって臥褥期で一番つらかったのはホームシックだった。大学で寮生活をしていたにも関わらず、こんな気持ちになるのは意外だったが、思ったことを共有したり、すぐに話せる環境ではないのはかなりダメージのようだった。しかし、1週間入浴できなかったのは災害時のいいイメトレとして受け入れられたし、ずっと横になっていたおかげで何でもいいから何かしたいという気持ちになれたので、大変ではあったがいい経験となった。

臥褥期が明けると軽作業期で、ここでの生活に馴染めるか不安ではあったが、まずは色々助けてもらいながら慣れていこうと思えた。見学をしながら徐々に作業に混ざっていく中で、今までの自分なら新しい環境に尻込みしたり、早く覚えて失敗しないようにするためにたくさんメモをとっていただろうが、積極的に質問したり、やってみようと思えたり、頭ではなく体で覚えようとしたり、といったことができる自分に気付けたのは、大きな収穫だった。また、患者の皆さんや看護師さん、先生方が優しく気を遣ってくださったり、馴染めるように話しかけて下さったので、ここでの生活が楽しくなってきた時期でもあった。

イラスト軽作業期も順調に過ぎ、いよいよ作業期に入って、いい意味でドキドキしていた。1日1日があっという間で、作業を覚えるに従ってできることが増えていくことに喜びを感じていた。時々、ふと憂うつな気分に襲われたり、体調がなんとなく良くない日があったりしたが、目の前のやらなければならないことにうまく集中できた。また、こういうことができる機会はほぼないのだから、より大切に過ごしていこうとも思えた。作業に慣れてきたと思っても、イレギュラーが発生したり、人数が少なくて一人一人の負担が増えたりしたこともあって、いらいらやキャパオーバーでしんどくなることもあった。それでもそこから逃げ出さずに頑張れたことは自信に繋がった。反対に「やるならとことん」や「悪い意味での完璧主義」といった自分の良くない部分も出て、自分にできることを人に求めてしまったり、人にできることが自分にはできずに自己嫌悪する、といったこともあり、反省も多かった。

森田療法の中で一番感銘を受けたのは「まずやってみる」ということだ。何かをする時、自分の体調や考えで全部止めてしまうのではなく、その状態で構わないからとにかく「やってみる」怖いから、体調が悪いから、で歩みを止めてしまうと、余計にその負の状態は大きくなってしまう。だったら、怖くてもしんどくてもいいから動きを止めないこと、という考え方は私に合っていたようで、自分が立ち止まってしまったところからは一歩大きく踏み出せたように感じる。この入院が終わったからめでたし、ではなく、一歩踏み出して再びスタートがきれた状態なので、森田療法で得た考え方、出会った人達、自分がした経験をいかにこれからの生活に活かせるか、自分にできることを模索していきたいと思う。そしてお世話になった患者の皆さん、看護師さん、先生方をはじめ、支えてくださった方へのたくさんの感謝を忘れないようにこれからの自分の人生を歩んでいきたいと思った。

 

【患者さんの声】 Bさん 10代後半 男性

中学生のとき、頭痛・吐き気などに悩まされて、学校を休むようになりました。

近所のクリニックで自律神経失調症という診断を受け、薬物療法を受けたのですが、一向に症状は良くなりません。生活を立て直したいと思い、森田療法センターで入院治療を受けることにしました。

入院した当初は、与えられた作業にしっかり参加していました。
ところが時折、頭痛・吐き気の症状が強くなることがあり、頻繁に作業を休む日が出てきました。
先生との診察の中で徐々に、対人関係のストレスが加わると症状が出ることが分ってきました。私はこれまで、精神的な状態とは関係がないと思っていましたが、入院生活を通して、次第にストレスが加わった時に症状が強く現れることが明らかになったのです。

原因が判明できたことで、症状とも少しずつ向き合い、付き合い方が分かるようになりました。また、症状があっても、そのまま作業に打ち込んでいるうちに、気分が優れ、症状が変化していく事に気づきました。

いまでは、症状が出てたときも、すぐに行動を立て直す習慣を身に付けました。

症状が改善して、病棟で行なわれた行事の企画・実行も成し遂げることができたことは自信にもつながりました。行事も盛り上がり、他のメンバーからも「良い行事だった」と言われたことが、嬉しかったです。達成感がとてもありました。

いまでもストレスが高まると症状は出るものの、すぐに立て直すことができます。専門学校にも通えるようになりました。