森田先生の神経症克服体験として、「明治31年(西暦1898年)25歳の時に神経衰弱と脚気に対する薬物療法をしていたが、学費の送金が止まり、どうにでもなれという気持ちで試験勉強に打ち込み、薬物療法を辞めた」といったことが知られています(「実践森田療法」(北西憲二著))。実際に森田先生が内服していた薬剤は不明ですが、「続・精神医学を築いた人々」(松下正明著)には、1920年頃に森田療法が確立した頃、神経衰弱に有効だと言われていた薬剤として「ブロム剤、リン・ヒ素剤、亜鉛チンキなどの内服、ヌクレイン酸ナトリウム、リンゲル、臓器製剤などの投与を行い、それらが無効であることを知った」と記されています。こういった薬剤は、現在使用されることはありません。安全性と有効性が確立された薬剤がある現代においては、薬物療法を補助的に用いて症状を緩和させつつ、森田療法を行うことがしばしばあります。森田先生も現代の薬剤があったら、柔軟に治療に取り入れていたかもしれません。
自己判断でお薬をやめてしまうことは避けてください。症状にとらわれない、生き生きとした生活を実現するためには、治療方法にこだわりすぎないという視点も重要と思います。